令和の日本において、身近に射幸性を堪能できる場所――。
今日も全国のパチンコ店には多くの老若男女が集合し、各々の好きな台に座って興奮、怒り、悔しさなどを味わっている。
数ある機種のなかで、もっとも人気を博している機種の一つがジャグラーシリーズだろう。
シンプルながらも奥深いゲーム性や「ジャグ連」と呼ばれる独特の出玉曲線など、魅力を挙げればキリがない。
つまり、ジャグラーに集う人たちの「打つ理由」も十人十色。実際に生の声を聞けば、単なる遊技の枠には収まらない、多様性に富む人間模様が垣間見えるはずだ。
この企画では、自称ジャーナリスト・板橋北子(いたばしきたこ)がゲリラ取材を敢行し、「Youは何しにジャグラーへ?」と問う。
さて、今回はどんな物語が紡がれるのだろうか――。
【Vol.26 フランダースのジャグ】
■日時:2022年11月某日(水) 21:00
■場所:東京都・某区
■取材対象:AAさん(推定19歳・男性・無職)
※了承を得た上でインタビューしています(フィクションも含まれます)
――Youは何しにジャグラーへ?
「あ、あぁ……」
――すみません、お話を伺っても大丈夫ですか?
「は、はい、だ、大丈夫です。うっ、うぅ……」
――コインサンドに千円札を入れる手が震えていますね。緊張?
「この2日ほど、水しか飲んでないんです。手持ちが少なくて」
――ジャグラーを打たずにご飯を買えば?
「だって、お金が増えるかもしれないじゃないですか」
――まずはご自分の身体を考えたほうが良いですよ。
「そうなんですけどね……。この2000円で結果が出せるはずです」
――そもそも、なぜこのような状況に?
「話すと少し長いですよ。お腹、減ったなぁ」
――後でおにぎりでもご馳走しますから。是非お願いします。
「ぼくは中学生の頃に両親をなくして、叔父さんの家に引き取られました。最初は叔父さんも叔母さんも優しかったのですが、徐々に冷たくなって」
――そんな過去があったんですか……。
「高校卒業の時点で家を出ました。しばらくアルバイトを続けていましたが、ちょっと身体を壊してしまって。そんなときに出会ったのがジャグラーです」
――普通に働けないから、ジャグラーを稼ぎの中心にしたと?
「はい。近所の設定状況も良かったですし、働くよりも時間が自由に使えますから、こりゃ良いやと」
――で、なぜ今はそんなに追い込まれているんですか?
「叔父さんです。数ヶ月前に突然現れて、これまでの養育費を毎月払えって。仕方ないけすけど、手元にお金はほとんど残っていません」
――もう、区役所などに相談してみては?
「でも、ジャグラーと一緒なら何とかなると思っています」
――ジャグラーは頼りになると。
「いつだって、ぼくの大切な友達です。苦しいときだって、寂しいときだって、いつも一緒にいてくれて、助けてくれた。きっと今日も……あ、あと1000円か……」
――震えが増してきましたね。
「だだだだ、大丈夫。ききききっと、今日も……」
――落ち着いてください。
「そ、そうですよね。頼むよジャグラー。残り37枚、28枚、17枚……あぁ、嗚呼……あっ!」
――きゃー!! やった!! ペカリましたね!!!!
「はい、ほっとしました……」
――私、おにぎりを買ってきます! 待っててください!
「ジャグラーありがとう。ぼくは疲れた。なんだかとても眠いんだ……」
AAさんに幸あれ。
Youは何しにジャグラーへ?
板橋北子(いたばしきたこ)がアポ無し取材を敢行し、ジャグラーを打っている人々に「Youは何しにジャグラーへ?」と問う、インタビュー形式のコラム。「ジャグラーを打つ理由」を聞き、ドラマチックな人間模様や波乱万丈の物語を紹介していく。