初夏の匂いが漂ってきた2022年6月中旬。
光に群がる夏虫の如く、今日もジャグラーには多くの人間が集い、GOGO!ランプの輝きを待ち望んでいる。
彼らが一義的に求めているのは、ペカリによる刹那的な快楽、そして金銭的な見返りだろう。
しかし、きっとそれ以外にも「打つ理由」は存在し、丹念に深掘りすれば彩りあふれる人間ドラマが垣間見えるはずだ。
この企画では、自称ジャーナリスト・板橋北子(いたばしきたこ)がゲリラ取材を敢行し、「Youは何しにジャグラーへ?」と問う。
さて、今回はどんな物語が紡がれるのだろうか――。
【Vol.12 ジャグラーおくりびと】
■日時:2022年6月某日(水) 15:00
■場所:関東地方・某県某市
■取材対象:Lさん(推定51歳・男性・自由業)
※事前に了承を得た上で、インタビューした体のフィクションです。
――Youは何しにジャグラーへ?
「え? い、いや、あの…」
――動揺してます? 何かありました?
「別に変な理由はありませんよ。ジャグラーを打つのは個人的な趣味の一環というか…」
――個人的な趣味?
「このお店、今月いっぱいで閉店することは知っていますか?」
――それは知りませんでした。それと何の関係が?
「実は私、閉店マニアなんです」
――閉店マニア?
「間もなく閉店する店に行って、ジャグラーを打って、記念撮影して、お礼して帰る。鉄道マニアにも『葬式鉄』っていますよね。あれと同じようなものです」
――葬式鉄はよく分かりませんが…なぜジャグラーを?
「ほぼ必ず設置されているから。大切なお別れのときなのに、よく知らない台を打って、よく分からないまま勝ったり負けたりするのはイヤですし。そういった意味でジャグラーの存在は貴重ですよ」
――閉店するお店の魅力は?
「散り際の美しさ…ってやつですかね。なんとも言えない寂しさと同時に、ある種の色気が店全体から滲み出てるんですよ。それに気づいたのが10年前」
――どんなキッカケが?
「実は私、小さな飲食店を経営していたんです。それを潰してしまったとき、なんというか、悔しいんですけど、同時に快感というか、破滅の美学というか…」
――目覚めてしまったと。
「その直後、とある閉店間際のパチンコ屋さんに入って、『やっぱり私が求めているのはこれだ!』と思いましたね。それ以来、マニアとして活動しています」
――ご自身のお仕事は大丈夫ですか?
「かれこれ3軒ぐらい店を潰していて、もう大変です。クセになっちゃってね。両親から譲り受けた田舎の土地も手放しました。ハハハ」
――パチ屋の閉店を見て喜んでいる場合じゃないのでは?
「……。最近は閉店するお店も多くて、マニアとしては嬉しい悲鳴ですよ。明日は東北地方まで遠征するつもりです。私自身、終わりが近そうだから頑張らないと!」
Lさんに幸あれ。
Youは何しにジャグラーへ?
板橋北子(いたばしきたこ)がアポ無し取材を敢行し、ジャグラーを打っている人々に「Youは何しにジャグラーへ?」と問う、インタビュー形式のコラム。「ジャグラーを打つ理由」を聞き、ドラマチックな人間模様や波乱万丈の物語を紹介していく。